Q&A


ハ.商用周波の電磁界と健康


Q1.電磁界問題に関してどのような研究が行われているのでしょうか。

Q2.疫学研究とはどのようなものでしょうか。

Q3.電気関係の職業の人の子供に女の子が多いと聞きますが,本当でしょうか?

Q4.わが国における電磁界問題に関する動物実験,細胞実験の内容を紹介してください。


Q1.電磁界問題に関してどのような研究が行われているのでしょうか。

A1.大きく分けて人を対象にした研究(直接曝露実験と疫学調査)と生物学的研究(細胞実験や動
 物実験など)が行われています。
   疫学研究は,1979年のWertheimer等の報告以降,居住環境ならびに職業環境下での調査が行
 われており,小児白血病,脳腫瘍や成人のがんが調査対象疾病として取り上げられています。
   生物学的研究では,細胞を対象にして,電磁界が生体に作用するとしたらどのようなメカニズム
 であるかとの基礎的な研究や,実験動物を強電磁界に曝露し,その組織に対する作用を明らかにす
 る観点から実験が行われています。
  特に,電磁界曝露による,1)細胞と組織機能への影響,2)メラトニン分泌や免疫系への影響,
 3)腫瘍の発達への影響,4)人の脳波・心電図等の生理的活動への影響などが調べられています。


Q2.疫学研究とはどのようなものでしょうか。

A2.疫学研究は人の集団を対象にして,そこに発生した疾病(病気)とその原因との関連性を統計
 的に調査する学問です。疫学研究は,大別して相関研究,症例−対照研究ならびにコホート研究の
 3通りの方法があります。
  相関研究は,ある特定の集団の死亡率や罹患率(病気が発生した率;病気が回復した人を含む)
 を標準の死亡率や罹患率(たとえば,国全体の平均的な値)と比較するものです。
  症例−対照研究は,集団の中で問題となる疾病を特定し,個々の症例に対して,年齢や性別など
 をできるだけ一致させて,その症例を持っていない対照群(たとえば,健康な人)を抽出し,両群
 で問題となっている原因の曝露量を調査し,比較するものです。
  コホート研究は,問題となる原因の曝露を受けている集団を特定し,追跡期間を設けて,各個人
 の受けた曝露量とその期間での死亡または疾病の発生を調査し,無曝露の集団の死亡率や罹患率と
 比較するものです。電磁界問題では,検討している罹患率が非常に少ない(発生が稀な病気)ため,
 精度を向上させるためには,大きな調査集団を必要とします。


Q3.電気関係の職業の人の子供に女の子が多いと聞きますが,本当でしょうか?

A3.確かなことは分かりません。電磁界曝露との関連でいくつか調査があります。
  アルミ精錬工場などのように高磁界に曝される機会のある作業者の子供の男女の性比が調べられ
 ています(ノルウェー)。その結果は,男性従業員から生まれた子供(1,816人)では男女の
 性比に差はありませんでした。一方,女性従業員から生まれた子供81人のうち,男子が30人で
 あり,男子の出生割合はかなり低下しました(約37%)が,調査された人数が少ないため,さら
 に検討が必要です。
  なお,この報告では作業環境での電磁界レベルの測定は行っておらず,また,男女の出生にはホ
 ルモンも関係していることから,様々な要因を考慮して解析する必要があり,単純に電磁界に曝さ
 れた結果であるとは言えません。


Q4.わが国における電磁界問題に関する動物実験,細胞実験の内容を紹介してください。

A4.電磁界の生物影響に関して十分信頼できる,また客観的なデータを蓄積するために,わが国で
 はいくつかの関係研究機関が調査・研究を進めています。
  1998年11月9日に開催された環境庁のワークショップ(下記)での発表からそれらを紹介
 します。
  低周波電磁界の影響に関する研究では,厚生省国立公衆衛生院が,マウスを対象にして,乳腺腫
 瘍の増殖過程に及ぼす磁界曝露の影響研究を,電力中央研究所が,サルモレラ菌,大腸菌を用いて
 高磁界の変異原性(遺伝的変異を引き起こすかどうか)に関する実験,動物を用いた実験としては
 マクロファージ(白血球の一種)機能,AKRマウス(白血病を自然発生する系統のマウス)を用
 いた白血病の促進・発生に対する磁界曝露の影響実験,ラットの乳腺腫瘍に対する磁界の曝露実験
 などを行っています。また,国立環境研究所は,ボランティアにより,磁界曝露が人の生理機能に
 与える影響の研究を進めています。ここでは同時に,一般住民を対象にした磁界の曝露量調査を行
 い,その調査結果から曝露評価手法の開発を行っています。
  一方,郵政省通信総合研究所では携帯電話からの電磁波曝露の影響を明らかにすることを目的と
 して,動物実験用曝露装置の開発と曝露評価を行っています。同所で開発した曝露装置を用いてラ
 ットの血液−脳関門(脳の機能を定常的に保つために血行と脳の間に存在すると見られる障壁)に
 及ぼす影響の動物実験を東京大学の研究グループが進めています。
  それ以外に,大学や国立・民間の各研究機関でも調査・研究が進められています。

 参 考:
  主催/ワークショップ実行委員会・環境庁:第2回電磁界の健康影響に関するワークショップ。
  1998年11月9日,国立がんセンター


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